「やあキミたち、グッピーが好きかい?」
突然背後から声がしました。振り返ると蝶ネクタイにチェックのベストを来たおじさんが、ニコニコ笑いながら立っています。
「こんにちは」「こんにちは」二人とも上手に挨拶が出来ました。
「この赤いのはなんですか?」礼儀正しくみっちゃんが聞きました。
おじさんはおぉと口を丸くして、
「それはアルピノだよ。1匹しかいないのによく見つけたねえ」感心していました。
「あるぴの?」義経くんは初めてそんな名前を聞きました。
「うん。生まれつき色素が抜けてるんだ。だから血の色が見えるんだよ。グッピーだけじゃなくどんな動物にもいるんだ」
おじさんはポケットからはなかみの束を取り出し、義経くんに一枚渡しました。義経くんはそれで鼻をチーンしました。
「人間にもいるんですか?」みっちゃんは相変わらず礼儀正しいです。
「もちろんさ。それがねえ、この前縁日の見世物小屋にいたんだよ。肌が真っ白で目の真っ赤な子供がねえ」おぢさんは話し好きのようです。二人はすっかりおぢさんの話に夢中になってしまいました。
「髪の毛まで真っ白なんだ。その子がね小さな声でこっちこっちて手招きするもんだから近づいたらね・・いきなり・・」
「が〜っ!て叫ぶもんだからもうびっくりしたね。牙が生えてたよその子」
義経くんはおぢさんが両手を上げて突然叫んだので驚きのあまりしりもちをついてしまいました。コンクリートが濡れていて義経くんのお尻も湿りました。
「はっはっは。すまない驚かせてしまったね。そうそう、見世物といえば、いよいよ日本で第一回のグッピー世界大会が開かれるんだよ。知ってるかいキミたち」おじさんの話はあちこち飛ぶようです。
世界大会ってなんだろう、ふたりは一緒に首を振りました。
「グッピーは綺麗な子供がたくさん生まれるからね。そのうち一番綺麗な子をみんなが持ち寄って、世界で一番美しいグッピーを決める初めての大会が、なんとこの日本で開かれることになったんだよ」
おじさんは自慢げに胸を張っていました。
「すっごーい」義経くんとみっちゃんは目を輝かせていました。
そんな素晴らしい大会が日本で行われるとは、なんて誇らしいことでしょう。
「グッピーて世界中にいるんですか?」
みっちゃんが聞きました。
「当り前じゃないか。グッピーは綺麗だからね。世界中で飼われてるんだ。今回もアメリカやイギリス、ドイツ、パリ、ニューヨーク、シンガポール、ハワイ、いろんな国から参加表明があるんだよ。それにアマゾンからも届くって話さ」
アマゾンと聞いて義経くんは激しく動揺しました。
「ア、アマゾンてひ人食いっ」
義経くんの指はさっきのワニ水槽をさしていました。
「はっはっは。グッピーは人を食ったりはしないよ。でもアマゾンではグッピーは普通に川にいるからね。あまり綺麗ではないんだ」
「川にいると綺麗じゃないんですか?」すかさずみっちゃんが訊ねました。
「うん。グッピーは水槽で飼わないと綺麗にはならないんだよ」
へえと二人は感心しました。
「グッピーは人間が毎日世話をしてあげて初めて綺麗になるさかななんだ」
おじさんは目の前の水槽をあごで示して満足そうです。
「アマゾンの人にはどうやって大会のことを教えたの?」義経くんはアマゾンにこだわりが出来てしまったようです。
「そっそれは・・・」おじさんは急に言葉に詰まりました。
「で電報だよ電報」
義経くんとおじさんはしばらく見つめあいました。
そしてどちらからともなくこっくりうなづきました。
義経くんからタラリと鼻水が垂れました。
「やあこんにちは。子供相手にグッピー談義ですか?」
急に声がして振り向くと、カンカン帽にラフな服装の青年が笑顔で立っていました。
「なんと岩崎くんじゃないか」
おじさんは驚いたようすで、青年の手をとりました。