「ご無沙汰しています。こちらにアルビノのグッピーがいると聞きましてね。フィッシュマガジンの発売前に頂ければと思い、お伺いしました」青年は帽子を取って一礼し、おみやげの紙袋を渡しました。
「これはすまないね・・ああ」
おじさんは、紙袋から水の入ったビニルの袋を取り出し、
「素晴らしいグッピーじゃないか」
目の高さまで袋を差し上げてから、背伸びしている子供たちにも見せてあげました。
それは真っ赤な尾ひれに黒い斑点がたくさん入った美しいグッピーでした。
「すごーい!」水槽の中にいるものよりずっと尾ひれの大きなグッピーを見て、二人は大はしゃぎしています。
「今日はなにか祭事でも?」青年がおじさんに尋ねました。
「いや、遠足らしいね」おじさんは答え、ちょっと失礼と袋を持ってどこかへ行ってしまいました。

「きみたちもグッピーを飼っているのかい?」青年は二人に聞きました。
みっちゃんも義経くんも首を横にふりました。
「そうか、グッピーはいいぞ。是非飼いなさい」
青年は二人の頭に、正確には黄色い帽子に手を置きました。

 「グッピーというさかなはね、飼う人の心を写し出す鏡のようなものなんだ。飼ってる人が怒ってばかりいると、顔つきが悪くなって、あちこちをイライラつついて回るグッピーになる。反対にいつもニコニコしていると優しいおだやかなグッピーになるんだよ」
青年の話を二人はじっと聞いています。
「だからきみたちもグッピーを飼って、優しいおだやかな心で育てるんだ。そうすればきっとグッピーはその気持ちに応えてくれるよ。素晴らしいグッピーを育てるのは技術じゃない、心なのさ」
「でも育てるのって難しいんですよね?」みっちゃんが言いました。
青年はハハと笑い「どんな生き物でも育てるのは難しい」と答えました。
「きみたちもお父さんお母さんが優しい気持ちで育ててくれたからこんなにすくすくと大きくなったんだよ。グッピーも同じさ。きみたちが優しい心で真剣に育てれば、世界大会出品も夢じゃないよ」
青年の言葉に二人は夢心地でうなずいていました。世界大会だなんて夢のような話でした。

 「この人はね、岩崎くだるさんといって、若いけどなかなか優秀なグッピーの育種家なんだよ。わたしの見たところ将来有望な青年だね」おじさんが戻って来て言いました。
二人も自分の名前を言いました。岩崎青年はよろしくと答え、さて、アルビノは・・と水槽を見ました。
「しかし、さすがに情報が早いねえ。どうせ緑書房から聞いたんだろうが」おじさんは腕を後頭部に回し苦笑いしています。
「おっこれだな」青年も笑って答えず、目まで赤いグッピーを観察しています。
「いいですねえ。本物だ」
「代金はいいよ、すくって行きなさい」
おじさんは苦笑いしながら、なんとなく嬉しそうでした。

その時です。
拡声器の声が館内にも鳴り響きました。
「3年2組の生徒!全員集合しなさいっ!」八木先生の、とっても不機嫌そうな声でした。